山好きが高じて信州へ
ご主人は九州、奥さまは東京都の出身。山登りやスキーが好きで、市が運営するクラインガルテンを借りたのが大町との最初の接点でした。
「東京で仕事をしながら、どこかで“移住したいな”という夢は持っていました。山に行くのが好きなので、あちこち行くなかで“こういうところがいいなあ”というイメージが膨らみ、検索して見つけたのが大町の市民農園でした」
東京に住んでいた時も畑はやっていましたが、地方に拠点を持つならもう少し本格的にやってみたいことの一つだったというお二人。山の近くで菜園をしながら暮らしの体験ができる環境はまさに理想でした。
「平日は東京で仕事をしながら、週末やGW、年末年始にこちらに来ていました。畑仕事を通じて地元の人と縁ができて米作りを手伝ったりするうちに、私たちもここで暮らしていきたいと考えるようになりました」
ちょっとお金を出せば全てが揃ってしまう都会と比べ、体を動かし、自分で作らないと成り立たない田舎の暮らしは、「やってみたら結構楽しくて」と話すご主人。
「憧れと大変さ、理想と現実みたいなものですね。ぼんやりと思い描いていた田舎暮らしでしたが、これは若くないとできないと考え直し、移住の決心がつきました」
会社員”ではない選択肢
畑や田んぼ、薪のある暮らし。「せっかく引っ越すなら、今までやっていないことができる生活がいいなと思って」と、生きていくため何をするか考えた結果、たどり着いたのがパン作りでした。
「今までも趣味で作っていて、友人に分けたりしていました。でもお店をやるのは初めて」と奥さま。天然酵母パンは手間も時間もかかるし、山間のこの場所で販売となると、2人で一緒にパン屋になるのが自然な流れだったと言います。
普通の水が美味しい幸せ
「意外と3日やるだけでもヘロヘロ」とご主人が言うほど、パンを作るのは肉体労働。
お店のある日は3時に起きてパンを焼き始めます。木曜日は仕込みで、残りの週休3日間に畑や田んぼ、薪作りが入るので、引っ越してきてからは割とフル稼働。
「雨で畑がお休みなら、お休みと言う感じですね」と笑う奥さま。作っているのは、飽きの来ない、小麦の香りがする滋味深いパン。定番は山食パンや田舎パンなど食事系で、オープン時には10種類くらいが並んでいます。酵母をおこすにも、パンを作るにも、使うのは大町の水道水。
「水が美味しいと言うのは、クラインガルテンに入って真っ先に感じたことの一つです。ペットボトルの水は一切買わなくなりました。パン作りにも農業にも、安心してたっぷり使えるのはありがたい」とご主人。
商品には「自分たちが本当においしいと思うものだけを使っている」といい、国産の小麦、塩、砂糖、他に必要なものだけを加えて丁寧に焼き上げています。
「パンは気温や食材、いろいろな要素があって味が決まるのではっきりとは分かりませんが、水も美味しさの一因になっているのでないかと思います」
1番違いを感じるのは、日常で飲むコーヒーの味。市内には湧水もあって、遊びに来た友人が持って帰ることもあるそうです。
自然を守り、繋いでいく
豊かな水を育む雄大な山々と、そこに住む人々。大町に住み始めて、それらは吉本さんにとって一層身近な存在になりました。
「田舎暮らしでゆっくりできるかなと思ったけれど、実際は結構忙しいです。取捨選択をする場面も増えました。工夫したら楽しめる、野菜なんかのお裾分け文化は楽しいですね。せっかく恵まれた環境があるので、ゆくゆくは麦から育ててパンを焼いてみたいとも考えています」
もう一つ吉本さんたちの目指しているのが、エネルギーの地産地消。みんなで山の木を使って自然を守りながら、薪ステーションとしてコミュニティを作る構想です。
「お年寄りの方ともネットワークを作って、みんなで一緒にやっていこう、って話をしています。知り合いもできてお互いに楽しく暮らせる、そんな地域を目指したいです」
水、畑と田んぼ、エネルギー。そして人。
「これだけあったら、何があっても強い地域ができるでしょ?」と笑うご主人。
自然を守り、守られながら作るパンは、モチっとしてあたたかく、とても優しい味でした。
INFORMATION
名 称 | 美麻ベーカリー |
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住 所 | 長野県大町市美麻3363-5 |
電話番号 | 0261-29-2970 |