地の利が育てた特産品
「大町市はもともと水稲栽培が盛んなところ。一面田んぼが広がっている景色を見れば、水が豊富なのはよくわかる」と峯村さん。農家にとって、この“水不足の心配がいらない環境”は何よりの魅力です。
「1番多く作っているのがりんごで、あとは米もやっています。他には西洋梨、日本梨、ブルーベリー、プルーン、プラムあたり。どれも水は必須だね」
昨今のりんご栽培は、根を浅くして木を小さく、コンパクトに育てるのがトレンド。省力化して早く実が採れるようにするそうです。
「イメージはトマトを育てる感じ。でも根を浅くすると乾燥に弱くなるから、定期的な潅水(かんすい)が欠かせない。畑のすぐ脇の川には絶えず水が流れているから、やっぱりそこは安心します。」
りんご畑は市内に2箇所。東山にある圃場は居谷里水系の湧水(女水)を、北アルプス側の圃場は北アルプス山脈由来の湧水(男水)を利用しています。どちらもミネラル豊富な湧水です。
「ここしか知らないからなんとも言えないけど」と前置きをしつつ、「お客さんからは大町のりんごは持ちがいい、ボケにくいと言ってもらうことが多い」と峯村さん。
「この辺りは標高が760mほどで、りんごを作るには高い方。最近は温暖化の影響もあって変わってきたけど、昔から“11月25日までにはふじを採り終われ”なんて言葉があるくらい県内の他の産地より収穫が早いんです。そうすると歯応えがあって、甘味と酸味が絶妙な実ができる」。
この“しっかりした固さ”と、“酸味もあって濃い味”が大町市で採れるりんごの特徴。
「寒暖差があるから色づきも良くて、害虫が少ないからしっかり育ちます。水はもちろんだけど、アルプスから吹き下ろす風や大町特有の寒さ、山が守ってくれている環境は日々実感しています」
継ぐことで守れる環境がある
三人兄弟の末っ子だという峯村さん。りんごの栽培に関わるようになったのは“何となく”の連続でした。
「上の2人は早くから“農業はやらない”って宣言していて。親父もそこで学んだんでしょうね。“りんごやらないか?”って声をかけられたのは、大学院最後の夏でした」
二つ返事でOKし就農した峯村さんでしたが、実は一年でドロップアウトし、家を出た経験があると言います。
「文字通り家を飛び出して長野市の広告代理店で就職していた1年間があります。親父とうまくいかなくて辛くて、普通にサラリーマンをしていました」
飛び出したきっかけもお父さんでしたが、戻ったきっかけもお父さん。
「たまたま帰った正月の2日に、“畑行くぞ”って言われて。雪の中2人で行ったんです。奥まで進んでいったら、家を飛び出す前は植えていなかった場所に新しいりんごの木が植えてあって。“何してもいいけど、おまえが帰ってきてりんごやる用意はしてあるからな”って、そこで初めて覚悟が決まりましたね」
サラリーマン生活を通じて、「誰かのつくった商品をオーバーに表現して格好つけて売るのに違和感があった」と峯村さん。今は自分で作ったりんごを直接お客さんに届けられるのがとても楽しいと言います。
「原体験は小学生のときにあって、姉貴と店頭に立って観光客にりんごを売っていたのが楽しかったんですよね。畑から見る山だとか、流れる川の音だとか、花の咲いた季節もやっぱり良くて。経営理念でもある通り、りんごを作ることでこの環境を守っていきたいと思っています」
残すものと変えるもの、新たな挑戦
今は、ジュース製造によって出るりんごの残渣(ざんさ)と籾がらを混ぜて発酵させた有機質肥料や、そば殻を使っての土づくりなど、りんごに優しい環境づくりにも力を入れています。作っているりんごは25、6種類。平成18年にあった降雹の大被害がきっかけで、その年から農産物の加工所もやっています。
「新鮮な原料をすぐに処理できるのが魅力で、最近は地元の大学と一緒に、加工用の赤果肉品種も育て始めました」
果物も水稲も、大町の水と豊かな自然あってのもの。これからについて「残すものは残して、変わるものは変えて行けばいい」と峯村さんは話します。
「たとえば核家族化が進んで、食卓に上がるりんごは小ぶりなものが求められるようになりました。時代に合わせてニーズを反映しつつ、今ある資源を守り残せる方法を探っていきたいと思います」
美味しい水と雄大な山々が育てた完熟りんご。ぜひ一度、ご賞味ください。
INFORMATION
名 称 | 峯村農園 |
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住 所 | 長野県大町市大町5895-1 |
電話番号 | 0261-22-3454 |
HP | https://minemuranouen.jp |