北アルプスの登山客や立山黒部アルペンルート・大町温泉郷への観光客などを魅了するものの一つに、日本酒があります。信濃大町の地酒がおいしい理由を、三つの特長に分けてご紹介します。

信濃大町の地酒の特長 【其の一】
清冽な水

信濃大町には、駅から徒歩15分圏内に3軒の酒蔵があります。酒の味は各蔵で当然異なるものの、共通しているのは、仕込みに使う水。
三蔵で造られる酒の大半が、標高900メートルの里山「居谷里水源」から湧く「女清水(おんなみず)」を利用しています※。
女清水の特徴は、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの含有量が極めて低い軟水であること。そのため酵母が緩やかに発酵し、まろやかな酒に仕上がるといいます。
※銘柄によって女清水以外の水を利用している酒もあります。

信濃大町の地酒の特長【其の二】
こだわりの酒米

信濃大町の三蔵は、日本酒に欠かせない米にもまた恵まれています。大町市を含む北安曇野産の清らかな水を蓄えた大地で伸び伸びと育った酒米の多くは、大町市内にあるアルプス搗精(とうせい)工場で精米され、蔵元へと運ばれます。
酒米の生産から加工、そして日本酒の醸造・販売・消費までのラインが全てあるのも、信濃大町ならでは。
“自分の蔵で使う酒米は、全て地元産にしたい”と、米作りにも意欲的です。

信濃大町の地酒の特長 【其の三】
杜氏の技と個性

酒の味を作る蔵元の最高責任者である杜氏。杜氏は歴史的に北国の農家の出身であることが多く、杜氏とともに酒造りを行う「蔵人」も、農家の冬の副業として土地に根付いてきました。そんな中、信濃大町の三蔵の杜氏は、3名とも県外からのIターンで、農業とは無縁だったという個性派揃い。北安醸造の山崎義幸さん、薄井商店の松浦宏行さん、市野屋の村山大蔵さんに各蔵の酒造りについてお話を伺いました。

北安醸造
"キレのある甘さ"を目指して

最初にご紹介するのは、代表銘柄「北安大國(ほくあんだいこく)」で知られる北安醸造株式会社。
この蔵は、大正12年、近隣に祀られている約2mもの巨大な大黒様にちなんで「大國正宗(だいこくまさむね)」と銘じた清酒の製造を始めました。
二階に麹室がある珍しい造りで、市内でも最大級の木造二階建ての蔵です。

「うちのお酒は、昔ながらの甘口ですが、甘みの中にもキレを感じさせる酒を目指しています」
そう教えてくれたのは、杜氏の山崎義幸(よしゆき)さん。
常温でもお燗でも、冷やで香りを愉しむのもよし、好みにあわせて飲める北安大國。寒仕込みのお酒も、蔵出しの時期によってさまざまなバリエーションがあり、風味の違いが楽しめます。

近年は、アルコールが飲めない人にも麹の味を愉しんでもらいたいと、酒米の麹100%を使った甘酒「北安大國 蔵づくりあまざけ」を発売。
こちらは、2018年11月に行われた第1回長野県甘酒鑑評会で「長野県知事賞」と「グランプリ」を見事ダブル受賞するほどの反響で、2019年1月現在品切れ中。
販売については北安醸造のホームページでご確認ください。

登山が趣味だという山崎さんは、愛知県出身。22年前に信州へ移住し、平成14年より酒造りを一から学びました。
北安大國の酒米の大部分を占める松川村の田んぼの近くに自宅を構え、夏は自ら田んぼの手入れをしているという山崎さん。
将来的には全ての酒を地元のお米で造りたいと考えています。
「毎日お酒を飲むことが健康の秘訣です!(笑)」

薄井商店
大町の自然を生かした酒造り

銘酒「白馬錦」の蔵元、薄井商店の創業は明治39年。
信濃大町の恵まれた自然環境を生かした酒造りを目指して、近年、すべての酒に大町市内の契約農家が栽培した酒米を使っています。

きっかけは、20年ほど前。薄井社長がヘリで上空から大町市を視察。北アルプスの雄大な山々、仁科三湖や高瀬渓谷、居谷里湿原などの多くの自然と共に目にしたのは、黄金色に美しく輝く田園。「この美しい水田を守ろう、別の産地から来た酒米ではなく、大町市内の酒米を使って酒を作ろう」ということで、この取組みが始まりました。
単に契約農家から仕入れるのではなく、年に2回、栽培方法などの勉強会を行い、酒米の品質向上にも尽力しています。

杜氏の松浦宏行(ひろゆき)さんに酒造りのこだわりを伺うと、
「食事に合わせやすいお酒を目指しています」と第一声。
普通酒から大吟醸に至るまで20種類以上の種類がある中で、具体的な食事のシーンを想定しながら、酸の入り具合などを試行錯誤しているそうです。
また大町ならではの自然を生かした酒造りとして、真冬の1月に絞った生酒を標高900メートル付近にある雪室に埋めて初夏5月に掘り出す「雪中埋蔵」を県内で初めて行ったのも薄井商店。夏季限定の人気商品で、6月上旬から販売されます。
さらに、夏の間も温度が12〜13度に保たれる東京電力のダム湖の側にあるトンネルで貯蔵する「湖洞貯蔵」も実施。これは9月に蔵出しし、秋季の酒として販売されます。

松浦さんは、石川県にある小さな町の蔵元の出身。次男だったので酒造りとは関係ない道へ進むはずでしたが、学生時代に日本酒の試飲即売会を手伝ったことがきっかけで、酒の魅力に引き込まれたといいます。その後、実家で酒造りの手ほどきを受け、広島県の醸造研究所で1年間勉強した後、導かれるように大町へやって来ました。
研究熱心で、お酒が大好きな松浦さん。気になるお酒は取り寄せたり、実際に蔵元へ出向いて見学することもあるそうです。

「今後の目標は、大町ではじめて栽培された"金紋錦"※で大吟醸を造り、全国新酒鑑評会での金賞受賞を狙うこと。そして美山錦、ひとごこち、トドロキワセ等の大町の酒米の個性を、酵母や製造方法の組み合わせにより引き出し、白馬錦の味のバリエーションを広げることです。
これからもお客様に楽しみながら飲んでもらえるお酒にしたいと思っております。」


※金紋錦:たかね錦と山田錦の交配種として昭和31年に長野県で開発された酒米。その後、美山錦やひとごこちなどが台頭すると、栽培農家が減り、一時は木島平村のみで栽培される希少品種になっていた。2017年から大町市内の農家でも栽培を開始。特色は「複雑な香りと旨み」。

市野屋
品質本位の酒造り

「金蘭黒部」の市野屋の創業は、信濃大町三蔵の中で最も古い慶応元年(1865)。大通りに面した建物は、なまこ壁・うだつ(防火壁)などが残り、時代を感じさせます。
特別に蔵の中を見学させてもらうと、巨大な梁や大黒柱、天井の蒸気窓など特徴的な造りで、建築遺産としても貴重な建物であることがわかりました(蔵見学は予約制)。

金蘭黒部の酒造りについて杜氏の村山大蔵さんにお話を伺いました。
「今ある設備と、地元の酒米を使って、基本に忠実に造っています」
酒米として使用している美山錦は、大吟醸以外は大町市内の契約農家から。レギュラー酒に使っているトドロキワセもほぼ大町産です。

夏場は7町歩(約7ヘクタール)の田んぼを担うお百姓さんでもある村山さん。
農薬を使わず、合鴨農法と除草機を併用しながら、食用米・酒米の両方を作っています。
杜氏自ら育てた酒米「白樺錦」で仕込んだ純米酒「愛醸純醸(あいがもじゅんじょう)」は、黒部(扇沢)の氷筍水を採取して仕込んだ氷筍水仕込純米吟醸酒に次ぐ人気商品です。

「周りの農家に頼まれたりして、だんだんと規模がでかくなっちゃって」
と笑う村山さんは千葉県出身。薄井商店(白馬錦)の蔵人の求人に応募したのがきっかけで、大町へ移住しました。

日本酒離れが進む中、若い女性にも気軽にお酒を楽しんでもらおうと開発したという「ピンク・ピーチ・スパークリング」は、2018年秋季の全国酒類コンクール(リキュール部門)で見事1位を受賞。
日本酒をベースとした桃のスパークリングカクテルで、ほんのりとした桃の香りと甘み、微炭酸でスッキリ感もあり、食前酒としてもおすすめです。

信濃大町の地酒を楽しむイベント
北アルプス三蔵呑み歩き

最後にご紹介したいのが、「北アルプス三蔵呑み歩き」。
年に一度、信濃大町の三蔵のお酒を飲み比べられる、日本酒好きにはたまらないイベントです。
参加者は参加費(2018年は2,000円)と引き換えに参加証代りのお猪口と巾着をもらえます。そのお猪口を持って各蔵をめぐり、好きなだけ試飲を楽しむことができます。

2008年9月に始まったこの企画は、各蔵の旬の味わいあるお酒や自慢の酒はもちろん、この時だけしか飲めない非売品の酒が供されたことも。
商店街の協賛店でも特別品が提供されるなど、町中がお祭りムードに包まれる秋の休日。
年を追うごとに賑わいを増し、地元の方のみならず、県外や海外からも多くの人々が集います。

2019年の開催日程など詳細は、下記のホームページに掲載されますのでご確認ください。
「北アルプス三蔵呑み歩き」公式ホームページ

INFORMATION

名 称 北安醸造株式会社
住 所 大町市大町 2340-1
電話番号 0261-22-0214
HP https://hokuan.co.jp/
名 称 株式会社 薄井商店
住 所 大町市大町2512-1
電話番号 0261-22-0007
HP https://www.hakubanishiki.co.jp/index.html
名 称 株式会社 市野屋
住 所 大町市大町2527番地イ号
電話番号 0261-22-0010
HP http://www.ichinoya.com/
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