リーマンショックきっかけに就農 ICTを取り入れて

年々農業事業者の減る中、その前線に立って取り組む (くぼた かずや)さん。信濃大町で100年以上前から代々農業を営み、「久保屋」として百姓の技術を受け継いできました。昭和28(1953)年の信陽新聞には、先々代の窪田 武一(くぼた たけかず)さんが「巳年の凶年をふっ飛ばした篤(とく)農家」として稲作技術を紹介した記事が掲載されています。

リーマンショックの煽りを受け、2009年に就農した窪田さん。「農業をするようになってから、会社員時代より四季を感じるようになりました。毎日のちょっとした変化に気づけるようになったんです」。毎朝田んぼを見て回るのに、数時間はかかるそうです。

前職では工業関係の仕事をしており、農業にもいち早くICT(情報通信技術)を取り入れました。農業機械メーカーの(株)クボタが開発したクボタスマートアグリシステム「KSAS(ケーサス)」を活用し、たくさんのほ場を電子地図で管理し、田んぼごとの食味や収量をデータ化しています。

「家族3人で広いほ場を管理しているので、伝統は守りつつも、省力化できることは積極的に工夫しています。余裕ができれば、より良いものをつくるための実験ができますよね。最近は本当に肥料が必要なのかなと、化学肥料・化学農薬不使用のお米づくりにも挑戦しています」。

窪田さんの「トライ&エラー」精神は、久保屋のモットーとして代々受け継がれてきたもの。農業技術が劇的に変化した1950年代にも、いち早く農具の機械化を導入しました。百姓の伝統を引き継ぎつつ、新しい技術を積極的に取り入れる温故知新の精神を感じます。

高瀬川と木崎湖、異なる水で作られたお米たち

久保屋の広大な田んぼには、エリアによって異なる水が使用されています。北アルプスから信濃大町、安曇野へ流れる信濃川水系の高瀬川(たかせがわ)と、仁科三湖と呼ばれる青木湖、中綱湖、木崎湖(きざきこ)から流れる農具川。高瀬川の水は冷たく、逆に農具川の水は少し温かいため、それぞれ収穫時期が異なるため管理方法も工夫していると話す窪田さん。

大町市街地は高瀬川とその支流によってつくられた複合扇状地。ゆるやかな棚田が山に向かっていくつも連なっています。周辺の水田は地形の制約上、北アルプスを源とする冷たい高瀬川の水を取水する必要がありました。水稲の生育に最適な水温は16度から25度、最低水温は12.5度といわれています。高瀬川の水は夏でも13度ほど。冷たい水を少しでも温かくしようと農業用水路のかけ口には小さな池がつくられ、日光により水温を上昇させています。

しかし水温は高ければ良いということもなく、夏でも温くなりすぎない水がお米の生育に適しています。標高700m以上と高地のため昼夜の寒暖差が激しく、農作物が丈夫に育ちます。ほ場の環境に合わせ、工夫しながら取り組んでいきたいと話していました。

「お米の産地では水が重要です。その点信濃大町は、水が豊富です。山や湖に蓄えられた豊富な水が絶えないのは、農家にとって理想的な環境だと思います」。

お米にとって、水は命の源です。豊富な水を環境や温度に合わせ工夫して使用することにより、信濃大町ならではのお米の味に仕上がります。窪田さんは「これからも“毎日食べても飽きない米づくり”を目標に取り組んでいきたい」と意気込んでいました。

信濃大町の水で作った久保屋の「ゆめしなの」

久保屋で栽培するブランド米「ゆめしなの」はコシヒカリを親に持ち、標高の高い土地にだけ育つ希少なお米。透き通るような真っ白のお米は、ほんのりとした甘さとあっさりした食感が特長です。農具川の水を使用し、8月末には収穫・販売される極早生品種。長野県の『信州の環境にやさしい農産物』認証制度を取得し、化学肥料や化学合成農薬の慣行基準50%以上削減を達成しています。

「パッケージのイラストは、信濃大町在住のアーティスト・淺井 真至(あさい しんじ)さんに依頼しました。おにぎりの形に北アルプスの山々、麓には一面の田んぼと豊かな川の様子が描かれています。北アルプス山脈の雪解け水が豊かに溢れた、日本の原風景を表現していただきました」。

「ゆめしなの」だけでなく「コシヒカリ」「もちひかり」「あきたこまち」などを栽培する久保屋のお米は、公式HPから通販にて購入することができます。長野県外では、東京都立川市にある信濃大町アンテナショップでも販売中。気になった方は、ぜひお買い求めください。

INFORMATION

名 称 久保屋のお米
HP https://farmkuboya.thebase.in/
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