耳にする機会が増えたハードサイダーとは

「簡単に言えば原産地呼称。例えばシャンパンとスパークリングワインを呼び分けるようなもので、もの自体に大きな違いはありません」と醸造責任者の池内さん。

世界にあるりんごの品種は15,000種。原種も含めるとその数は10万品種にも登ります。そのうち日本で栽培されているのは2,000種類。生産量で見ると半分はふじ。さらに普段目にする有名どころが全体の75パーセントを占めています。

「りんごは、酸味・甘味・渋みの組み合わせで味が4つに分けられています。タンニンが強いフランスの専用品種を使って造るりんご酒がシードル。それ以外は厳密には違う、っていう話なんです」

小澤さんたちは、主にアメリカの西海岸でりんご酒の醸造を学びました。西海岸はクラフトビールの影響を大きく受けていて、自由度の高さが特徴。

「“あるものをいいものに仕上げていく”という考え方に親近感を覚えて、僕たちの酒造りが始まりました。だから呼び名もアメリカ流のハードサイダー。厳密に言えば“ジャパニーズハードサイダー”だと思っていて、例えばりんごならふじとか、酵母なら日本酒酵母とか。この場所にある素材の味を大切にしています」

りんごを通じて見直した大町の魅力

「実家が専業農家。ただ両親は自分たちの代で畑を閉じるつもりでいたし、僕も普通に民間企業に勤めていました」と話す小澤さん。

続くと思っていた環境が一変したのはリーマンショックがきっかけでした。
「社会の価値観が大きく変わった瞬間でした。おもしろい生き方に直結する仕事をしたいと思って選んだのが、りんご園を継ぐことです」

当初は右も左もわからず、模索する中で出会ったのが仲間。ともにサノバスミスの代表を務める宮嶋さんをはじめ、各地にいた同世代のりんご農家と繋がって、自分の地域と改めて向き合う機会ができました。

「仕事という意味合いで自分の地域を見直しました。枝の選定ひとつとってもやり方は全く違う。味も変わる。りんごの品種特性を調査していくなかで水の大切さを知り、サイダーに出会った感じです。自分の作っているりんごについて、純粋に知りたくて」

先輩のワイナリーを手伝ったり、樽を借りて自分たちでサイダーを仕込んだりしていましたが、あくまでそれは研究の一環。

「やりながら、 “これ僕が作ったお酒なんです”って言った方が強いし、言えないと真髄も見えてこないと感じました。栽培に苦労があるように醸造にも苦労があるはずで、究極は土作りから飲むパーティーまでプロデュースしたいと思って。農園と同時進行で研究をしてきました」

味をつくる“北アルプスのミネラルバランスの良い水”

大町市は水利がとてもよく、標高や緯度を見てもりんごの栽培に適していると小澤さん。長野県最後の砦が大北地域になり得るのでは、とさえ考えています。

「歴史もあって今なお栽培が続いている土地なので、やはり強いなと思います。北アルプス山系のミネラルを含んだ水は、やっぱりちょっと違うんです」

「ミネラルやカルシウムはりんごにとって必須養分ではありませんが、適度に与えないと果実の生育に影響が出ます。特にりんごは的面に品質に現れるので、クオリティを担保するためにもミネラルやカルシウムは必須なんです」と話すのは池内さん。

大町市は普段から使う水にそれらが含まれている、これは何よりの強みだといいます。

「土壌や天候、さまざまな要素が合わさるので一概には言えませんし、自分たちも研究の途中です。ただ、北アルプスのミネラルを含んだ豊富な水でりんごを育成しているのは事実で、味見してみるとやっぱり違いを感じます」

りんごもサイダーも、基本吸い上げた成分で味が決まります。豊かな水系を背景に、常に水が流れている大町市。水質もさることながら、“絶対に損なわれない水がある”のは、栽培にも醸造にも魅力的な環境であると教えてくださいました。

みんなでやる”ジャムセッションで生み出す文化

できた果実と畑をみた上で、“どう拵えようか”から取り組むサノバスミス。

ブランドのコンセプトは、“ファームtoチアーズ”と“メイクサイダー・メイクカルチャー”。まだまだりんごのお酒は歴史が浅く、あまり流通もしていません。「今年の畑はね、りんごはね」って、サイダーを通じて伝えていく会社でありたいし、飲み手とのやり取りも楽しみたいと考えています。

「文化ってお酒を飲めない子どもの頃から始まっていると思っていて。うちの子どもからしたら、お父さんが飲んでいる1番身近なお酒がサイダーなんですよね」

暮らしに根付く文化を創り、経済活動に繋げたいと話す小澤さん。

「シードルもサイダーも、日本はこれから定義を理解し始めるタイミングだと思います。商品を通じて純粋な“ハードサイダー”とその背景にある大町市、長野県の魅力を知ってもらえたら嬉しいです」

INFORMATION

名 称 株式会社サノバスミス
住 所 長野県大町市平9316 サノバスミス醸造場
電話番号 0261-85-5023
HP http://www.hardcider.jp/
TOP