水がもたらす大地の恵み

長い歴史の中で、北アルプスから流れ出る鹿島川、篭川がつくった扇状地は、花崗岩が広く分布し、水はけがよく、果樹の栽培に適しているという特徴を持っています。市内を流れる清冽で豊富な水は、北アルプスの山々から地下に浸透し、大地によりろ過されて湧き出た、純水に最も近い軟水で、雑味がないために、ワインだけでなく日本酒やビールにとっても欠かせない存在。

気候と風土 現在…そして未来へ

北アルプスがはぐくんだエレメントが多くの恵みをここ大町市にもたらす一方で、世界のあちこちでは、さまざまな原材料の産地が気候の変動により被害を受けています。世界が掲げる目標“SDGs”持続可能な社会をつくるために、個人ができることは何か、この先未来の子どもたちに残すために今できることは何か。

ノーザンアルプスヴィンヤード
地酒のようなワインをつくって食を軸に地域を活性化

ワインづくりのきっかけとなったのは、20代のころ東京のタイユバン・ロブションでソムリエをしていた従兄弟が勧めてくれたワインを飲んだことにさかのぼります。ワインの味わいはもちろんのこと、古くからワイン文化を培ってきたフランスの風土に興味を持ちました。

「フランスでは、産地の気候や特色を生かしたものづくりを大切にするという考え方が根付いています」と語るのは代表の若林さん。

国が地理的表示制度を整備、産地の保護と管理を強化しているため、ブレない品質保証が生産者の評価に対する誇りにつながります。このしっかりしたスキームこそがEU最大の農業国たらしめる所以。自分の中にある農業の概念を打ち砕くほどの衝撃だったと話します。
やがて2000年代初頭になると小規模でも醸造できるワイン特区が認められ、かねてより思い描いていたワインをつくることに。

それまで勤めていた広告代理店を辞め、Uターンしてすぐに大町市にあるスイス村ワイナリーで3年間生産ラインを学びます。
自社ブランドのコンセプトは
「日本酒の地酒のように地元色を全面に出したクラフトワインづくり」 
首都圏を中心にクラフトワインを提供する一方で、食を通じて地域とつながりを持ちたいと常々考えていました。毎年時期が来ると地域の人たちが、その年の出来を楽しみに待っていてくれるようなワイナリーを目指しています。そのためにも近隣の飲食店との連携は大切だと思っていて、関係するみなさんと一緒に地産地消に取り組んでいきたい…というのがこれからの展望です。

地酒のようなクラフトワインを手掛ける上で重要な特徴づけについてこんなふうに話してくれました。
「大町市は全国的に見ても水質が良好とされる高瀬川が流れています。北アルプスから流れる川が削り出した水はけのよい地形と水で、ここでしかつくり出せないものはどんなものか、どんな人たちが飲むのかを考えているうちにたどりついたのは、地元に親しまれるワインをつくることでした」

今もなお試行錯誤を重ね、研究所さながらデータ収集・蓄積に忙しない日々が続いています。実際に飲んでくれた人の意見を分析したり、ターゲットを意識したマーケティングも欠かせません。つくり手がおいしいと思ったものをかたちにして提案していくことで、これまでなかった新しい価値観を見出す。マーケティングを通じて市場の動向やトレンドを意識していくことは今後も続けていきたいと思います。

このほか力を入れて取り組んでいることは、商品の顔ともいえるラベルのデザインメイキングです。商品が棚に並んだ時、他のワインのラベルとデザインが似ていると目に留まらないというのが以前から課題に感じていました。広告代理店時代のころの経験を活かし、デザインとネーミングにもアイディアをしぼっています。

Vin d’Omachi Ferme36
SDGsの理念とともに継承する農業を体現 大町市の豊かなテロワールが生み出した自然派ワイン

現在10種類以上の品種を栽培し、年間3000本を出荷するFerme36。足利のココ・ファーム・ワイナリーで10年間、ブルース・ガットラブ氏の背中を見ながらワインづくりにかかわりました。自身のワイナリーを設立する際に、地質、土壌、水、年間の気温の変化に至るまで調査・研究し、ここ大町市に決めました。

ストイックな環境下でゆっくりと時間をかけて成木に育てた4000本の全てがヨーロッパ系品種。「有効積算温度に基づき、この地に適した品種を選んで栽培しています」と話すのはヴィニュロンの矢野さん。

環境負荷を減らし、栽培から醸造に至るまで人の手をなるべく加えない「自然そのもの」をワインで表現するというのがコンセプトです。
そして表現の場を提供してくれた地域とともに、ワイン文化の基盤をつくることを自身のなすべきこととし、この地に適したワインづくりを次世代へつなごうとしています。戦後間もないころ、松林や雑木林だった場所が先人たちの手によって開墾され、その後この地を引き継いだように、持続可能なものづくりを目指しています。

「ワインづくりの本質はあくまでも果樹としてのブドウの品質にあるんですよ」と話す矢野さん。ブドウの持っているポテンシャル以上のワインはつくれないと言います。
そうして出来たFerme36のワインは、自然派ワイン“ヴァン・ナチュール”の系譜を受け継いだ国産ワイン。果樹や土への影響を最小限にするため化学農薬は使わず、酵母についてもブドウの皮についた野生酵母で発酵を促すなど、生まれ持った資質でVin(ヴァン) d’Omachi(ドーマチ)を表現しています。

自然の中のあらゆる作用を受けたワインの仕上がりは、ろ過をしないこともあって変化に富んだ味わいです。グラスに注がれ空気とふれあうことで少しずつ新しい一面を見せ、飲む人を楽しませてくれます。ワインを通じて産地の風土に触れ、それぞれの感性で楽しんでほしいと話していました。

このほかFerme36では、長野県が推奨する農福連携を設立当初から継続しています。大町市社会福祉協議会 障がい福祉サービス事業所の皆さんと協力関係にあり、年間を通して様々な生産活動に取り組んでいます。
自然の恵みにほんのひと手間かけただけのヴァンナチュール、是非ご賞味あれ。

北アルプスブルワリー
北アルプスで磨かれた水でできたビール「氷河」 北アルプスブルワリーが地域のアイコンとして広く発信

ご当地グルメと並んで人気のクラフトビール。1994年の酒税法の規制緩和によって日本各地にクラフトビールを生産するマイクロブルワリーが徐々に増え始め、北アルプスブルワリーも2019年7月にオープンしました。

この北アルプスブルワリーが生み出した「氷河」は、北アルプスから溶け出した雫のよう。2018年1月に鹿島槍ヶ岳のカクネ里雪渓が氷河であることが認められ、それにちなんで命名したと話してくれたのはヘッドブルワーの松浦さん。
自然がもたらす恵みと、土地の利を生かした商品づくりについてお聞きしました。

使われているのは北アルプスで磨かれた水で、ミネラルが限りなく0に近い超軟水です。数多くあるビールのスタイルの中でも、メインとなるビールをピルスナーにしようと決めた背景には、大町市の水が持つすべてを最大限まで引き出したいからという理由があります。エールに比べて発酵期間が長くかかってしまい、生産効率が下がってしまいますが、それでも「ここでしか生み出せないもの」にこだわろうというのが北アルプスブルワリーイズム。このピルスナーと、クラフトビールの定番とも言える「IPA」「ペールエール」の3種を軸に、その他大町産のリンゴやブドウを使用した季節限定ビールや、コーヒーロースターの経験を活かしたコーヒービールなど、常時5種類以上のビールを醸造しています。

また、現在店舗が建つ場所は、かつての平成の大火(2005年2月)で失われ、深刻な空洞化が進んでいました。しかし14年の月日を経て北アルプスブルワリーがオープンし、再び人と人がつながる場所として動き始めています。
ありがたいことに幅広い年代のお客様に来てもらっていますが、中でも嬉しかったのは地元のお客さんが多いこと!今では食事に行く前に一杯飲んでいくお客様や、帰り道に最後の一杯を飲みにくるお客様が立ち寄ってくれる場所になりました。今後は直営店の出店計画のため、さらに忙しく飛び回る松浦さん。その際大町市にゆかりのある場所に出展するとのこと。今後の活躍が大いに期待できそうですね。

「水と人がつなぐ家族の笑顔」の記事にもあるように、コーヒーのロースター(焙煎士)のキャリアを10年以上持つ松浦さん。腕のいい焙煎士を輩出する老舗カフェ・バッハの企業理念には地域貢献が掲げられていて、自分を一人前と認めてくれた地域へ仕事を通じて地域を活性化することが、何よりの地域貢献だと教えられました。こうして歩み始めた新しいコミュニティを、この先も存続させていくためには、地域の人たちの存在がなくてはならないと感じています。

INFORMATION

名 称 ノーザンアルプスヴィンヤード
住 所 大町市大町5829
電話番号 0261-22-2564
HP http://navineyards.lolipop.jp/
名 称 フェルム36
住 所 大町市平8040-146
電話番号 0261-85-0425
HP https://tatsunokovin.blogspot.com/
名 称 北アルプスブルワリー
住 所 大町市大町上仲町4136-6
電話番号 0261-85-0780
HP http://n-alps.beer/
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