ふたつの出会い

「生活するのに不便はないですね。都会ほど便利ではないけれど、普通に生活する上で不自由というのは何もないかなという感じで」
そう話すのは、UNITE COFFEEの店主・松浦周平さん(39歳)。

兵庫県出身の周平さんが長野県で生活をはじめたのは、23歳の頃。スノーボードに熱中し、当初は白馬のスキー場で働きながら滑り、夏は立山黒部アルペンルートのホテルでアルバイトという生活を送っていました。
3シーズンを過ごす間に、生涯の伴侶となる人・京子さんと出会った周平さん。スノーボード漬けの日々にそろそろ一区切りをつけて、続けていける仕事を見つけようと、大町でのお二人の生活がスタートしたのは、2007年の夏でした。

「それまで大町は、白馬へ行く前に通り過ぎる場所だったけれど、関西や東京にも出やすいし、白馬にも近いし、スキー場もあるので。住んでわかったのは、住みやすい町だなということと、白馬に住んでいる時より、大町の方が、水道水がおいしいと感じました。何がどうおいしいのかは、なかなか言葉には表せないんだけど」

コーヒー屋をやりたい

小学生の頃から陸上400メートルハードルの選手として活躍し、大学生までは、ずっと競技生活を送っていた周平さん。カフェ開業のきっかけはなんだったのでしょう。

「立山で働いていた25歳の時、旅行先の金沢でたまたまコーヒーが有名なお店に入ったんです。ぼく、コーヒーはあまり好きじゃなくて、普段は砂糖とミルクをあるだけ入れるタイプなんですけど、せっかく専門店ということで、浅煎りの飲みやすい豆をすすめてもらって、ストレートで飲んでみたんです。そのときの味が忘れられなくて」

一度はまると、とことんのめり込んでいくタイプの周平さん。その後、コーヒーにもはまり、各地のカフェでコーヒーを飲み歩くようになります。とはいえ、すぐに商売にリンクはしなかったといいます。

「これまで遊んで来た分、ちゃんと就職して、という気持ちもあり…いくつか挑戦しました。けど、その仕事をずっと続けるのは無理だなと思った時に、いろいろ考え、コーヒー屋なら朝早く焙煎して、午前中嫁に店を見てもらいながら午後滑ってくるとか、自営業なら融通がきくのかなと」

こうして意を決した周平さん。要となったのは、奥さんの京子さんの存在でした。

「嫁は本当にコーヒーが好きで、ぼく個人としてはコーヒーがなくても生きていけるというぐらいの感じ。コーヒー大好きな嫁と、そうでもない自分がいたから、ちゃんと客観的に見れるという強みがあるなと」

その後、周平さんは松本・豊科の工場で働きながら資金を貯める一方、東京南千住にある自家焙煎珈琲の名店「カフェ・バッハ」に入門。月に3、4日東京に通い、コーヒー豆の知識と焙煎、淹れ方などを実践を通して学びました。

大町の水がつないだコーヒー

「バッハで自分が焼いた豆を大町に持ち帰って来て、自分で淹れて飲んでみると、バッハの熟練の焙煎士が焼いてプロが淹れたコーヒーと比べて、ぼくの豆の方がおいしいと感じました。修行中にバッハを越しちゃったのかな、ぼく天才かなと思いましたね」と笑う周平さん。

「よーく考えるとやっぱり水なんですよね、コーヒーの98%以上は水なので。東京で何十万もする浄水器を付けて淹れたコーヒーと、何もしない大町の水道水でこんなにも違いが出るんだなということがわかった時に、絶対大町でやろうと、確信しました」

松浦さん夫婦が、いざお店をこうと決意した時に、その場所は大町以外には考えられなかったと言います。

「大町の水は、軟水なので水が邪魔しないというか、いい豆を使えば、そのままの味が出る。最低限の塩素だけ入れて、ずっと流しているので、においがないし、水道の水が生きているんです」

その後、地元議員さんの紹介で、ワケあり物件を自力で清掃・改修することを条件に格安で借りられることになり、数ヶ月の準備期間を経て、2009年、現在地にユナイトコーヒーをオープンしました。
「色々な人に助けてもらって、できてるなと思います。自分は兵庫出身で、嫁は埼玉、そして大町。観光地だからお客さんもいろんなところから来るけど、この店によって繋がってくれたらいいなという意味で、あえて動詞のUNITEをお店の名前にしました」

生活するには、程よいいなか

現在、松浦さん夫婦は、5歳、3歳、10ヶ月の3児の子育ての真っ最中。取材に伺った際は、上の2人のお子さんはすぐ近くの幼稚園へ。京子さんは、一番下のお子さんをおんぶしながら店頭に立っていました。

「こっちに両親がいないので、基本、夫婦二人で育てているんですけど、自分たちみたいな境遇の同世代の人が大町には多くて、大変なのは自分たちだけじゃないって思えるし、助け合いが自然にできる環境で、子供はとても育てやすいな、と感じます」

心やさしい友人に恵まれ、出産の時や、家族が病気になった時などは、上の子を預かってもらったこともあるそうです。
スーパーもあるし、自然の中で普通の暮らしができて、特に「いなか暮らし」をしているという感覚はないと、京子さんは言います。
SNSに日常の風景を撮って投稿すると、ちょっと北アルプスが写り込んでいるだけで、すぐに「いいね」がついたり、友達にうらやましがられることもしばしば。

家族が増えたことで、ますます楽しみも広がります。
「今は忙しくてなかなか行けないけど、まだまだいいところがいっぱいあると思います。スノーボードをしに来たはずなのに、全然滑れてないけど(笑)これから子供たちと色々なところに出かけるのが楽しみです。」
と京子さんが笑えば、
「スキー場も近いから朝天気が良ければ行って、泣いたら帰って来ようっていうことができる。都会の人の非日常が日常にあります」と周平さん。

根っからのアスリートである周平さんは今はゴルフにハマっているそう。そして、縁あって大町の地ビールの開発に携わることになり、醸造の修行中でもあります。

「生活として、なりたかった大人っていうものを今、大町だから一個一個実現できている感じ。充実感がありますね。」(周平さん)

「子育てがひと段落したら、とりあえず飲みたいですね。旦那が作るビールの試飲担当で(笑)」(京子さん)

スノーボードからコーヒー、そして、ビール。大町の水が、家族の笑顔と未来をつないでいきます。

INFORMATION

名 称 UNITE COFFEE(ユナイトコーヒー)
住 所 大町市大町4098-4
電話番号 0261-85-0180
HP https://ameblo.jp/unitecoffee/
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